アーセナル戦でガットゥーゾが4-4-2、アンドレシウバを使う理由
2018年3/19日、7万人の大観衆の中で久しぶりに4大リーグのトップチームと本気の勝負をすることになったACミラン。
2018年になってからリンギオ・ミランは無敗を続けて、ローマやラツィオなどの上位陣を倒して復活の兆しを見せていたため、不調のアーセナル戦は勝利を手に入れられると思い込んでいた…ただ蓋を開いて見れば0-2と完敗に終わってしまったのであった。
国内で好調を維持していただけにこの敗戦は選手にもサポーターにもかなり辛いものとなってしまった。
だが諦めるのはまだ早い。
ELの決勝トーナメントはホーム&アウェーの二回勝負で決着がつく、明日の早朝ロンドンの試合に全力を尽くせば必ず勝利を持ち帰ってくることができるはずだろう。
しかしアーセナル戦、本職のSBはリカルド・ロドリゲス以外招集されておらず、ケシエも疲労のため出場できるか怪しいラインである。
そんな中でガットゥーゾがアーセナル対策として練習していたのが442である。
(Gazzetta紙の予想スタメン)
442を試合の開始からやったことがあるのはターンオーバーの試合を除いて今季始めてだ。
このメンバーを見れば、ミランを見ない方は既にELを諦めてリーグ戦に全力を尽くしているのではないかと思われるかもしれない面子だ。
だが、しかしこれは前回試合で浮き彫りになったミランの弱点をしっかりとリーノが研究して、勝利をもぎ取るために考えたフォーメーションなのではないだろうか。
なぜ私がそう思ったのか、その理由を早速説明していこう。
〈ビリア脇のスペース〉
今シーズン始まってからミランは常にこのアンカー脇のスペースに悩まされてきた。モンテッラ時代に使われていた4123、352のどちらもネガトラ時の空いたアンカー脇のスペースはビリアがずっと一人で埋めてきた。
彼は守備自体は上手い選手で、単純な一対一ならまず負けないだろう…だが守備範囲の広い選手ではないのだ。最初のハーフシーズンはかなり酷かったが、それは代表戦の疲れだけでなくそこの整備をせずに走り回らせたのも理由の一つだろう。
しかしガットゥーゾ就任以来はIHが「走る」という古典的かつ最重要な動作でそこのスペースをバレないように埋めていた。実際あまりバレていなかったし、そこをついてくる敵は少なかった。
だがエジルやムヒタリアン、ウィルシャー、ラムジーといったIQが高くテクニックもある選手達はその弱点を見逃さない。
ミランはコンパクトな守備ブロックでボールを刈り取ったあとに一気にカウンターで攻め上がる得意な形をしようとするが、ケシエとジャックは基本的に状況を考えずに前線に駆け上がってしまう。
だが、ボールを取られた後にアーセナルはボールホルダーに複数人でプレスをかけて、プレミアリーグで鍛え上げられた強いフィジカルでボールを奪うのだ、単純なフィジカル勝負ではおそらくケシエ以外誰一人勝てないミランは簡単にチャンスを作られてしまう。
これは一失点目のシーンだ
画像を見ていただければわかる通り前線にケシエとボナベントゥーラが上がってしまいビリア脇のスペースはガラ空きとなる。そこに集中的なプレスでボールを奪いエジル→ムヒタリアンとで失点してしまう。
アーセナルがチャンスを作るときは9割方がこのビリア脇のスペースを使えた時だ。
逆に言えばこれ以外ではチャンスを生み出せていない、そのため底の位置を2枚にし、リッカという頭でプレーし、状況を考ないで上がることのない選手を置くことで奪取された後のリスクを消しつつカウンターすることができる。
さらにビルドアップ開始時にウィルシャーがビリアにマンマークをつくのだが、そこもリッカが入ることでプレスの逃げ所が生まれてボヌッチがクリア気味の適当なロングフィードをあげることも少なくなる。
〈不調のボナベントゥーラ 〉
二つ目は絶対的スタメンのボナベントゥーラが出ない理由だ。ガットゥーゾ就任以降素晴らしい活躍を見せているイタリア人MFだが、このアーセナル戦では特に不調であった。クトローネが楔で降りて来たスペースに常に彼が飛び込んでいるのは本当に素晴らしい、だが他のシーンでは簡単に叩く所をドリブルで突っかけて行ってしまったり、無理矢理ミドルシュートを打ち込みに行ってしまう。
SBがかなり高い位置をとるモンテッラベースの攻撃ではこの位置で無理に仕掛けてロストするのは自殺行為同然である。
さらに一番の問題は守備時の切り替えの遅さである。先程言ったようにリーノのサッカーはアンカー脇のスペースをIHの走力でカバーしているのだが、この試合やそして直近のジェノア戦などで過密日程の疲労からか色々なシーンでジョギングで戻るシーンが目立つ。ガットゥーゾのサッカーで走れない選手は正直言ってかなり厳しいのである…
それならば後半からスーパーサブとして出場させて、体力と集中力がなくなりつつあるアーセナル守備陣を翻弄する役割をさせる方が相手にとって脅威的だろう。
(2失点目のシーン、ジョギングしながらもどるボナベントゥーラ #5)
〈2トップの理由、FWの選考理由〉
そして最後の理由は、なぜ2トップを採用して相方をアンドレシウバにするかである。
ミランは基本的にリトリートをして守備をするチームではあるが勿論、状況によっては前プレをかける。基本は下記の写真の通り
1stプレッシングでクトローネがコースを切り二枚目として限定したサイドのIHが2ndプレッシングに行くのだ(基本は4141の守備ブロック)しかし、ここの行くタイミングが曖昧かつ1stプレスのクトローネが若く戦術的なプレスのかけ方が下手なためにCBから楔で一気にアンカー脇のエジルやムヒタリアンまで通されてしまうのだ。これ関してはセリエ相手でもかなり狙われてるポイントであるため、早急に決まり事を決めた方がいいだろう…
しかし1st legでガットゥーゾは修正として後半から442を使用しているのだ。
その写真がこちらである
カリニッチ、アンドレでプレスをかけて最終的に左サイドに追いこみコシェルニーが焦ってパスミスでラインを割るシーンなのだがこの綺麗な442のラインを見ればわかるがビリア脇のスペースも彼の守備圏内に選手が配置されていて、切り方も完璧なため出しどころはない。
一人一人の役割がハッキリしているのだ
つまりアーセナルのような自由にポジションを変えるチームにはこのように442が合っていると言えるだろう。
そして最後になぜFW2枚がクトローネとアンドレシウバなのか…これにもちゃんとした理由があると私は思っている。
まずはクトローネは当確だ、2-0と圧倒的不利なこの状況で一番得点力があるこの選手を出さない理由はない。
問題は相方である。
なぜアンドレシウバなのか、普通に考えれば裏抜けで勝負をするクトローネとポストプレーもきて身長も高いカリニッチが一番合うと思うかもしれない。
だがそれは違うのだ…
カリニッチのポストプレーの形は、ワンタッチで的確な位置にボールを叩いて、自分はペナ内に入ってクロスを待つスタイルなのだ。
対してアンドレ・シウバはボックス内での圧倒的決定力を持っていなながらも楔を受けに降りてきて相手を背負いながらタメを作って他の選手の上がりを待つことができる。
前者は現在、あの決定力だ…
逆転を狙うにはかなり不安だし何よりワンタッチで叩くのを感じ取ってくれるほど連携がまだチームメイトとはとれていない。
そして後者、彼が活躍できない理由はボックス内の入り方が下手なのと、結果を出そうとして楔を叩く時の球離れが遅くなる、この2点だと思っている。しかしクトローネが降りてきてる時はボックス内で待てるし、前節のゴールで重荷のようなものはきっと降りたはずだ。アンドレが降りて行ったらクトローネは好きなだけプルアウェイの動きが出来るし、さらにリッカが精度は置いておいて積極的に裏を通すロングパスを供給してくれるだろう。
ガットゥーゾがアンドレは2トップの方が良かったと以前会見で言っていたが、その理由はおそらくこういった彼の未熟さをもう一人のマーカーがいることで消せて、本来の長所を存分に発揮できるからなのだろう。
〈まとめ〉
長くなったが以上3つの理由がアーセナル戦でガットゥーゾが442を使うメリットだ。
彼が言っていたが旅行に行くわけじゃなく勝ちに行くのだ。これより厳しい状況に何度と挑んできた彼ならきっと勝利をミラノに持って帰ってきてくれるだろう。信じて明日の朝を待つのみ… Forza milan
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ここまでのミラン、そしてこれから歩むべき道
2018年に入り未だ無敗のACミラン
一時は11位まで下がったチームをここまで闘う集団にしたのは紛れもなく新監督のおかげだろう。ただここまでの道のりは本当に厳しいものだった、難しい戦術の話や特定の選手の批判などは今回は置いて、自分が今、思っている気持ちをこの記事に書き連ねようと思う…
今夏、多くの資金を使って沢山の選手を獲得したミラン。ボヌッチやカリニッチ 、ビリアなどの実力者に加えてケシエやコンティ、アンドレシウバなどの期待の若手も多く獲得した。
プレシーズンではクトローネの台頭などもあり調子よく進んだため、これで優勝争いをしないなんて考えるようなファンはいなかっただろう。良い意味でも悪い意味でも注目されたミランは多くの期待を胸に新シーズンを迎えたのであった…
最初の数試合は良かった、本当にスクデットを獲るんじゃないかと思えるような連勝だった。
ずっと待っていたグランデミラノがついに復活する時だと誰もが思い始めていた。
だが現実はそう甘くはなかった…
モンテッラに教えられた効率よく戦うサッカーを走らないサッカーと間違った解釈をした選手達は走ることをやめ、勝てなければフォーメーションや連携のせいにした。犯人探しをしているようなチームの雰囲気は悪くなる一方で、様々なメディアから批判を受けた。
来夏にはドンナルンマやスソの放出も噂され最悪のチーム状況となっていた…
そんな泥沼だったミランを救ったのはプリマヴェーラ(下部組織)の監督を夏から勤めていたジェンナーロ・ガットゥーゾだ。現役時代には「リンギオ」(闘犬)の名で数々のタイトルを手にしたレジェンドだ…
明確な次期監督候補が決まらずモンテッラ解任に踏み切れなかったチームは最終的に半ば強引な形で解任し、内部昇格という形で監督交代に踏み切ったのだ。
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ミランのユニフォームは試合後に汗と泥まみれになるほど闘うためにあるものだ
しかし選手達はスーツのようにユニフォームを汚すことを嫌がり、切り替えなくなり、体を当てなくなっていった。
子供ながらに憧れて、取り憑かれるかのようにテレビにしがみついていた画面の奥の選手達は気づけばポジショナルプレー(笑)に固執し自陣でロンドをするだけの選手達に変わっていた
そんな腐りきった根性を叩き直すには最も闘志をあらわに走っていたあの男しかいない、就任当初は懐疑的な声もあったガットゥーゾだが私にとっては待望の瞬間であった…
もし結果が出なくとも彼等に何か大事な事を伝えてくれる、そう自分の中で確信があったのだ。
そしてその効果は徐々に出始めた。
「熱意は伝染する」ということわざがあるがまさしくその通りだろう。ガットゥーゾがメディアや練習を通して様々なガットゥーゾ節を披露した。その熱は選手たちに伝わり闘志が植えつけられていった。就任最初の試合から明らかな変化が見えた、守備では体を当てボールが取られればすぐに回収のためスプリントし始めるようになっていった。
スソがCKからのカウンターを受けた時、自陣の逆サイドまで走りスライディングで守備をしたり、やる気の感じられなかったモントリーヴォが体を投げ出して守備をしている姿を見て自分が信頼していた事は間違っていなかったととても感動したのを覚えている。
ベネベントやヴェローナなど格下と呼ばれる相手に劇的ドローや大敗をしてしまうようなメンタルがボロボロになるような試合もあったが、チームは既に変わっていた。
負けを引きずるのではなく次に繋げるための糧にし、クリスマス休暇を潰しチームとして団結するためにトレーニングに励んだ。次の試合にどうすれば勝てるのかを考え自発的にミーティングを開くまでになっていったのだ。
その闘志は試合ごとに燃え滾り、どんな勝利も最後は皆で円陣を組み喜びを爆発した。
そしてその中心にはいつも熱意の感染源が雄叫びをあげているのだ。
そうして成長していったチームは前半戦4-1、3-2と敗北したラツィオ、インテルなどにも勝利し、現在チームは7位まで戻ってきた。
次節は今季絶好調で6位につけるサンプドリアが相手だ。決して簡単な相手ではないがもし勝つことが出来れば、チームが変わったという事をしっかりと全世界に証明できるだろう。
そして今の彼らならきっとその期待に応えてくれると信じている。
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来夏にはサッリやコンテの招集案もあるが私は彼らに、このチームのアイデンティティを教えることは難しいと持っている。
今、選手達が常に走り続けられているのは誰よりもミランで結果を残したガットゥーゾが不細工な髭面で常に吠え続けているからだ。
もし名将と呼ばれる監督が来たところで今のようにチームのモチベーションが上がるとは考えにくい。
では何が最善か?
私は今のミランに必要なのはリーノの守備戦術の落とし込み、モチベーターとしての実力を支えられら優秀なコーチにしっかりと人件費を使う事だろう。
ガットゥーゾは当たり前の事を教えただけだと言う人もいるだろう、ただ、当たり前の事を完璧にこなせればそれだけで一つの武器になるのだ。例え0-5で負けていても誰一人諦める事なく走り続けられるチームがあるとしたら?
ボールを保持しつつアトレティコのように常に戦えるチームとして欧州の王者に返り咲けるのではないだろうか…これが私の考えてるミランの歩むべき道だ
最後に…CL出場権まで勝ち点差10、決して簡単な道のりではない、これからも上手くいかない時が多々あるかもしれない…ただ今ミランが歩むべき道は間違っていないと言う事を忘れないで欲しい。自分達が進んでる道を信じて後ろを振り向く事なく泥まみれになるまで走り、一勝すればその週全てを頑張れてしまうようなティフォージ達に最高の恩返しをして欲しい…
Ren (@Renssoneri1899) on Twitter